立て続けに鰍(いなだ)です。 本物の鯛飯が食べてみたいと思い立ちまして、大将にリクエストしてみたところ、一人分を作っても味が出ないので、三人くらい仲間を集めろ、と言われました。 その後、偶々、紅葉鯛(もみじだい)(真鯛の秋の呼び方)が入荷したときに、仲間を集めることができましたので、念願叶って、紅葉鯛づくしを味わうことができました。 まぁ……、すごいですぜ。
左から、めっかり、紅葉鯛 造り、紅葉鯛 若狭焼きです。 前菜から、紅葉鯛の造りと焼き物が出て来ました。 めっかりの和名は、ヘソアキクボガイで、爪楊枝で殻から取り出して食べます。 かなり磯の薫りが強くて、美味しいです。 紅葉鯛の造りは、皮付きで、もちもちした身の味が濃厚です。 醤油と山葵を少しつけて、いただきます。 紅葉鯛は、千葉県の大原産で、兵庫県の明石産の鯛と並ぶ、関東ではトップのブランドだそうです。 紅葉鯛の若狭焼きは、中に分葱が挟んで焼いてあります。 若狭湾で取れたものに使う料理名ですが、工程からこの料理名に成っています。 鯛は、捌いてから、一塩して天日干しして、昆布締めして、酒を振ってから焼いてあります。 焼くまでの工程が多くて、鯛の味が凝縮されています。 ちょっと塩気が強めで、皮の薫りが立ち上っています。 そのまま食べても十分に美味しいのですが、少しレモンを搾ったり、醤油をつけても美味です。
真鯛の茶碗蒸しは、初ですね。 今まで茶碗蒸しは、北寄貝と車海老しか食べたことがありません。 あえて、三つ葉といった青物を使わずに、舞茸と鯛のほぐし身で作ってあります。 舞茸は、色素が出るので、いつもの茶碗蒸しよりも、濃い色合いになっています。 下に行けば行くほど、味が濃くなるようになっていて、最後まで飽きずに食べることができる仕掛けになっています。 この茶碗蒸し、鯛の上品な旨味がよく出ています。 木の匙ですくって、掘り進めて行くと、最後に紅葉鯛の切り身を掘り当てます。 その皮と身の間の脂が美味しいです……。
紅葉鯛の中骨で出汁を取ったお碗です。 鯛の味が、しっかりと出ていて、五臓六腑に染み渡りますね。 身の方は、ややこふこふした食感になっていました。
本日のメイン、鯛飯です。 大き目の土鍋の蓋を開けた瞬間に、ものすごく良い薫りが立ちこめました。 これを食べに来たと言っても、過言ではありません。 2kgと1kgの二匹の鯛が、三合のご飯と共に、どんと炊いてあります。 鯛の出汁と身を入れて炊きあげた上に、別の鍋で作った鯛のそぼろが載せてあります。 これは、確かに一人だと食べられませんね。 鯛は800g位までの小さいものだと、あまり味が出ないそうです。
奥の鯛の頭を取りのぞいて、写真を撮ってみました。 鯛のそぼろが一面に敷いてあります。 底の方にお焦げがつけてあり、中骨についている身をほぐして、そぼろと一緒に掻き混ぜて食べます。
お碗に盛ったところです。 そして、実食――美味っ!!! 鯛の身が満載で、口の中が鯛の味で一杯になります。 絶妙な塩加減がたまりません。 これ、いくらでも食べられそう。 鯛の頭は、若狭焼きとは違って工程が少なく、そのまま焼いてあるのでジューシーで脂感が強く出ています。 身の味が濃いですね。 この鯛の頭をおかずにして、鯛飯を食べる幸せ……。 カマの肉の美味い事、旨い事。 とても贅沢です。 目玉の周りや皮の裏辺りにあるぬるっとしたゼラチン質のところも、美味しいです。 いやぁ、三人でも、かなり食べ応えがありますね。
赤豌豆は、ぽりぽりした食感で、金時豆が柔らかい食感です。 金時豆は、甘味があって、塩気のある鯛飯と、めちゃくちゃ合います。 甘い豆と塩気のある鯛飯を交互に食べると、鯛飯の旨さがさらに引き立ちます。 これを食べると、この豆が鯛飯と一緒に出された意味が解りますね。
最後は、鯛茶漬けです。 まず、お碗の中に、山葵、ぶぶあられ、細かく刻んだ海苔を入れます。 その上に、鯛飯を載せ、少し醤油味を足した熱々の鯛の出汁をかけます。 そのあと、下から山葵やぶぶあられを掘り起こします。
完成です。 そして、これがまた異様に美味しかったりします。 飲むように、さらさらと喉の奥に流し込みます。 美味いなぁ。 鯛飯の塩気が旨味の濃い出汁に溶けて、絶妙な味わいになっています。 最強のお茶漬けですね。 ちなみに、お茶漬け用の出汁だけ飲んでも、上品なお汁を飲んでいるようで美味しいです。
水菓子は、二種類の葡萄です。 左側が皮付きのサニードルチェで、皮のまま食べられます。 蜜留めにしてありますが、やや酸味が強い感じです。 藤稔は、皮が剥いてあります。 甘味と酸味のバランスが良い粒の大きい葡萄です。 蜜留めの効果もあってか、確かに甘味が強くて、かなり美味しいです。 いやぁ、鯛飯、堪能しました。 また、一つ夢が叶いました。 実は、あまりの量に、食べきれなくて、お茶碗一杯分の鯛飯と鯛の頭を半分、お土産にしてもらいました。 鯛はモノがいいので、冷めても臭みが出ず美味しく食べられるとのことで翌朝、鯛の頭はオーブンで焼いて、鯛飯は一緒に持ち帰った出汁を温めて、お茶漬けにして食べました。 翌朝でも、確かに美味しかったです。 さて、次は、松茸すき焼きかなぁ……。 そろそろ、お鮨も食べたいですね。 大井松田のうまけりゃいい屋は、完全予約制となっています。 お越しの際は、事前にお店に、ご連絡ください。 日本料理専門調理師、鮨調理技能士の大将が心から持て成してくれます。 |
奔り(はしり)、盛り(さかり)、名残り(なごり) それぞれの粋、それぞれの風味を堪能してください。
お料理から季節を知る、日本ならではの贅沢を感じていただければ幸いです。